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東京家庭裁判所 平成6年(少)4406号 決定

少年 K・T(昭和51.7.8生)

主文

少年を中等少年院に送致する。

理由

(非行事実)

少年は、興味を抱いた女性の後を付けているうちに、にわかに劣情を催し、

第1  平成6年6月2日午後3時15分ころ、東京都江東区○○×丁目×番東京都住宅供結公社○○住宅×号棟××号室・A方において、同所六畳

間で留守番中のB子(当時14歳)に対し、いきなり押し倒して馬乗りになるなどの暴行を加え、その反抗を抑圧し、強いて同女を姦淫しようとしたが、同女に抵抗されたため、その目的を遂げなかった

第2  平成6年7月21日午後5時15分ころ、東京都江東区○○×丁目×番×-××号・C方において、留守番中のD子(当時12歳)に対し、いきなり押し倒すなどの暴行を加えた上、その口を手で塞いで「騒ぐと全部脱がせるよ。」などと申し向けて、その反抗を抑圧し、強いて同女を姦淫しようとしたが、同女に抵抗されたため、その目的を遂げなかった

第3  平成6年8月3日午後5時20分ころ、東京都江東区○○×丁目×番×-××号・E方において、留守番中のF子(当時15歳)に対し、「100円ちょうだい。」などと言いながら、同所六畳間に連れ込んで、押し倒した上、平手で顔面を4、5回殴打するなどの暴行を加え、「やらせろ。」と申し向けて、その反抗を抑圧し、強いて同女を姦淫しようとしたが、同女に抵抗されたため、その目的を遂げなかったものである。

(法令の適用)

いずれの事実も刑法179条、177条前段(ただし、第2事実は同条後段)

(処遇の理由)

1  少年は、平成2年10月ころ(中学2年時)から、女性の身体に興味を覚え、胸を触りたいという欲求から、偶然見かけた女性の胸を触るなどのわいせつ行為を繰り返し、平成3年8月ころからは、女性の陰部をも触るようになった上、平成4年10月ころには、女性を押し倒してズボンを履いたまま下半身を押しつけて射精するようになった。それ以後、少年は、同様のわいせつ行為を繰り返していたが、平成5年2月3日及び同年3月4日に強制わいせつ行為に及んだことで、検挙され、同年9月10日当庁で不処分決定を受けた。それにもかかわらず、少年は、この時の経験を活かすことなく、欲望の赴くままに同年10月中旬ころ、女性への性的ないたずらを再開するに至り、平成6年4月ころから、友人の性的な話題に刺激され、女性と性交をしたいという欲求を強く持つようになり、同年5月中旬ころ、自宅近所でたまたま見かけた女子高生の後を付け、その自宅で強姦未遂行為に及んだことをかわきりに、本件非行を含め、偶然見かけた女性の後を付けて、その自宅等で強姦未遂行為を繰り返した。

2  そこで、少年の処遇を検討するに、本件非行の罪質、動機、態様、結果、本件非行に至る経緯をはじめ、少年の資質・性格、交友関係、生活態度、非行・処分歴、内省の状況、保護環境等の諸情情、特に、〈1〉本件非行は、幸い姦淫については未遂に終わったとはいえ、いずれも少年の欲望の赴くまま、何の落ち度もない未成年の女性をその自宅まで赴いて襲ったもので、極めて悪質な事案である上、本件非行の動機、態様はもとより、これまでの少年の性非行の態様、ことに女性の身体に興味を持ってから、強制わいせつ行為を相当回数にわたり繰り返し、その挙げ句、本件非行のような強姦行為までエスカレートしていること・前件の不処分の決定を受けながら、わずか1か月ほどで同種の性非行に至っていること、性的な欲求が高まると衝動的に行動し、自らはそれを抑制できないと見られること等に照らすと、少年において強制わいせつや強姦について常習性がうかがわれ、このまま放置すると、再度同種の非行に及ぶおそれが高いと認められること、〈2〉少年は、陰気で、抑うつ的であり、精神的に萎縮している上、社会性が未熟で、社会生活において不安や不満が高まった際に、空想に逃避してやり過ごそうとするが、それがうまくいかないと感じると、短絡的に性的な発散行動に出やすい傾向にあり、この性格傾向が本件非行の背景にあると考えられること、〈3〉少年の家庭環境については、表面的には問題のない家庭であるようにみえるが、ことに実父に権威的振る舞いが強く、相手の気持ちを考えないで発言する傾向にあり、他方、実母においては少年の気持ちを考えて支えるような関わり方が十分にできていないなど保護者の監護も万全なものとはいえないこと等に鑑みると、少年に対しては、矯正施設に収容し、自らの内面をしっかりと見つめさせるとともに、少年が内面に溜めている抑圧された気持ちを解消させ、性衝動を統制することができるべく矯正教育を施す必要があると考える。

よって、少年法24条1項3号、少年審判規則37条1項を適用して少年を中等少年院に送致することとして、主文のとおり決定する。

なお、少年は、これまで大学入学資格取得に向けて努力してきているので、大学入学資格検定受験に対応できるカリキュラムのある少年院での処遇が必要であるので、別途その旨勧告する。

(裁判官 山田耕司)

〔参考1〕 処遇勧告書〈省略〉

〔参考2〕 鑑別結果通知書〈省略〉

〔参考3〕 少年調査票〈省略〉

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